ホン・サンスの持つ方向感覚について

 ホン・サンスの新作『へウォンの恋愛日記』『ソニはご機嫌ななめ』の2本をみてきた。

 
 ホン・サンスという映画監督について、その内容であったり、そのスタイルであったりの特徴というのは、割と色々な人が似たようなことを語っているので、もうそこは人に任せておくとして、それとは別の、以前からなんとなく感じていたことをひとつ。このホン・サンスという人は、非常に適切な方向感覚を持った人なのではないかと思う。
 これはもうボンヤリと私がそう感じるだけなので、それがどうしたと言われても仕方が無いのだけれど、しかし例えばある場面で主役の女性がどちらに向かって話をしているかであるとか、泣いている男の元へ女性はどのように現れるのかであるとか、タクシーはどちらからやってくるのかであるとか、そういった細部の全てが、名状し難い適切さと規則性とでもってこのフィクションを成立させているように思える。
 
 そうした感覚というのは、ウェス・アンダーソン天才マックスの世界』において、女性を巡って仲違いしていたジェイソン・シュワルツマンビル・マーレイが久方ぶりに再会する時、「道路を横断する」という、和解の場面にあるべきささやかな負荷をかけるため、シュワルツマンの乗ったタクシーが右から入って来なければならなかったように、現実の規則から出発し、それを映画の規則として扱うことを目標としている稀有な映画にとって、非常に重要な要素となっているのではないだろうか。