『夜の流れ』

    プールサイドにおける司葉子の白さは尋常ではない。それは太陽光を受けて健康的に光り輝く肌の白さであるが、この白さは繰り返されない。彼女が再び太陽光のもとで捉えられるのは、暗がりでのみ映える芸者の装いである。その白さは何処までも深みの無い、光を吸収する技巧の白である。
    
    芸者姿のお披露目に出て行く司葉子を見送り山田五十鈴は引き戸を閉めゆっくりとこちら側に歩み始めふっと階段に脚をかける。その瞬間に「ああついに」と天界への繋がりを見出してしまう。空気が薄くなる。彼女が一段高いところへと行った瞬間にそのカットが割られるので一瞬そこは宇宙になる。しかし当然のようにその宇宙は二階へと繋がり、山田五十鈴は人間であった。

幾つかの仕草が記憶に残る。脚を引きずる。鼻をこする。胸を抑える。かつて存在したはずの全ての瞬間が過ぎ去り、仕草がこちらに送るするどい光線ばかりが目に突き刺さって残っている。身体がそうしてこわばるとき。精神の存在とは無関係に、人間の身体が最も物質として豊かに存在するとき。